2021年7月3日(土)に親を頼れない若者によるスピーチイベントを行いました。その一部を紹介し、社会的な背景とともに振り返ります。
むんちゃん/20代/女性
寝ていると、いきなりお母さんに髪を引っ張られてベッドから引きずり下ろされ、怒鳴られ、叩かれる。帰ってこない両親に代わって弟妹の世話をしながら、幼い妹に何かあったら、また叩かれる……殺される?という恐怖にかられる。それが女の子の日常でした。ある日、女の子はお母さんに言ってみました。「私は死んだほうがいいの? 生まれてこなければよかった?」。そんなことないよって言ってくれるかと思ったのに、お母さんは「バカじゃないの」と言って女の子のおなかを4度蹴りました。これはテレビで報道されるような事件にならない、誰も知らない物語です。なぜならその女の子――私は、今ここに、まだ生きているから。こんな日常を生きている子どもたちがひっそりと、本当に存在しているんです。
児童虐待は今や、広く知られた社会問題です。2019年度に児童相談所が対応した児童虐待の相談件数は前年度比21.2%増の19万3780件にのぼり、1990年度の統計開始以来29年連続で過去最多を更新しました。児童虐待が社会問題化するにつれ、以前なら見過ごされていたようなケースも通報されるようになったためだといわれています。しかし専門家は、誰にも知られないまま虐待に苦しんでいる子どもの数は、通報されているケースよりはるかに多いと見ています。
虐待を受けている子どもにとっては、どんなにつらい毎日でも、それが日常です。この生活はおかしい、自分の親は間違っているということに気づき、自らSOSを出せる子どもはごく少数です。大ケガをしたり、目立つような傷をつけられていなければ、周囲もなかなか虐待に気づけません。それでも、周囲のおとなが注意深く見れば、何らかの異変に気づくこともあるはずです。おかしいと思ったら、通報する。あるいはとりあえずその子に声をかけてみる。その子の話を聞いてみる。それが、その子にとって救いの糸口になるかもしれません。
周りをよく見てください。遅い時間に1人で公園にいる子、家に帰りたがらず、友だちの家にいたがる子……。変だなと思うと見えてくることがあるかもしれません。どうか変だなで終わらず、声をかけてください。
居場所がなく死んでしまおうかと思った中学校からの帰り道、通りすがりのお兄さんが私に「頑張れ」と言いました。母の過干渉や金銭搾取で参っていた時、大学の友だちが「何かできることある?」と聞いてくれました。誰かが私を見ていてくれる、それだけで生きようと思える1日があったことを、私は決して忘れません。
私はいま、2人の子を持つお母さんになりました。傷はまだ癒えませんが、虐待は連鎖しない、環境が大事なのだと日々戦っています。すべての子どもが子どもらしくあれる。そんな当たり前を皆さんに一緒に作ることができたら、私はとてもうれしいです。
執筆 : 原沢 政恵