2021年7月3日(土)に親を頼れない若者によるスピーチイベントを行いました。その一部を紹介し、社会的な背景とともに振り返ります。
キティ子/20代/女性
私が高校を卒業し、児童養護施設を退所したのは11年前。不景気のなか、私に与えられた道は、手に職をつけるために職業訓練校に進み、自立援助ホームで暮らすことだけでした。高校時代に貯めた貯金からホームの寮費を払うと、手元に残るお金は1カ月わずか5000円。自由になりたいと一人暮らしを始めましたが、現実は甘くなく、学校とアルバイトで生活はぎりぎり。自立援助ホームに相談に行くと、「ごめんね!今いる子の相談があるからまたね」。私は、「守るべき対象からあなたは外れたのよ」と言われた気がしました。
そんななか、施設の先輩であるなっちゃんが私を家に置いてくれ、自分も夜働いて大変なのに食べ物もお金も分けてくれました。「私が大変な時は誰も助けてくれなかった。でもキティ子はなんとかしたい」と。数年前いきなり連絡が途絶え、どこにいるのかわからなくなってしまった彼女は元気にしているのでしょうか。
実は訓練校に通うことで毎月10万円もらえる制度があったことを、何年も経ってから知りました。正しい情報を手に入れることができていれば、卒業間近に水以外のライフラインが止まることはなかったのです。
東京都の調査によれば、児童養護施設や里親のもとを巣立った子どもがまず困ったこと(複数回答)は、「孤独感・孤立感」が34.6%でトップ。次いで「金銭管理」32.0%、「生活費」31.0%などでした。原則として18歳で自立を強いられる子どもたちは、ひとりぼっちで相談できる相手もいないまま、さまざまな困難に立ち向かわなくてはならないのです。
近年、児童養護施設に退所者のアフターケアが義務づけられ、一定の条件を満たせば返済せずに済む自立支援資金貸付制度や奨学金制度も始まるなど、退所者への支援制度は拡充しつつありますが、十分とは言えません。施設の職員は忙しすぎて退所者の世話まで手が回らないことが多いですし、知っている職員がいなくなればつながりは切れてしまいがちです。
ブリッジフォースマイルが2020年に始めた施設退所者のトラッキング調査によれば、退所後3年3カ月で14.4%の退所者の現況がわからなくなっています。現況がわかる場合も、3年3カ月後には高校卒業後就職した退所者の61.1%が離職、進学者も18.8%が中退しており、退所者の不安定な生活ぶりがうかがわれます。
今日のコエールでスピーチした9人。親に頼れず、大丈夫じゃなかった9人がここに存在しています。大丈夫じゃない子どもがいることを知り、その子たちの話に耳を傾けてください。
いま私が働く支援の現場は、たくさんの力で支え合っています。子どもを育てるのは親でなくてもいいのです。誰かを傷つけるのが人ならば、誰かを助け幸せにするのも人であるということを忘れないでください。
執筆 : 原沢 政恵