2022年7月2日(土)に親を頼れない若者によるスピーチイベントを行いました。その一部を紹介し、社会的な背景とともに振り返ります。
しろし/20代/女性
私の家はとても貧しくて、母は無職の父の代わりに一日中働いていたため、私は多くの時間を父と2人で過ごしました。父にはよく暴力を振るわれましたが、嫌だと言うことはできませんでした。「子どもは親の奴隷だ、お前は親の言うことを聞いていればいいんだ」と父に教えられたからです。中学を卒業するころには、父は包丁を持ち出すようになりました。母は何度か離婚を提案しましたが、そのたびに私は「離婚したら私はお父さんについて行く。お母さんはひとりでも生きていけるけど、お父さんはひとりでは生きていけないから」と言って断りました。私は小さな頃からどんなときも笑顔で過ごすことを心がけていましたが、心の中ではいつも叫んでいました。誰か助けてって、何度も何度も。
親から虐待を受けている子どもの心はとても複雑です。虐待はつらいけれども、絶対的な存在である親には従うしかない。何をされてもやっぱり親が好きだし、親が非難を浴びればかばう。よその人には虐待のことを知られたくないから外では何でもないふりをし、笑顔で過ごす。でも実はやっぱり誰かに助けてほしい……。
児童相談所が扱う児童虐待件数は年間20万件を超えていますが、しろしのように、誰にも知られないまま苦しむ子どもはその数倍にのぼるとみられています。彼らは自ら助けを求めることがなかなかできません。そうした子どもを助けるには、通報を待つのではなく、助けを必要としている子どもを積極的に探し出して救い出す「アウトリーチ(外に手を伸ばす)」型の支援が必要です。国も近年その重要性を認識し、望まない妊娠や若年層の妊娠などのケースを出産前から継続して支援したり、乳児のいる全家庭への訪問事業、児童館など地域の身近な場所での交流・相談事業などを始めています。就労対策の一環として、長期間の失業やひきこもりで困窮している若者や中高年への訪問支援も始まっています。自治体やNPOが孤立して苦しむ若者たちへのアウトリーチ型支援を行うケースも出てきています。これらの動きはまだ始まったばかりですが、今後、社会全体に広がっていくことが期待されます。
しろしも、現在は実家を離れて働きながら通信制大学で福祉を学び、休日にはアウトリーチ型で同じ環境に置かれている若者同士が支え合うボランティア活動に参加しています。
私がやっているのは、着ぐるみを着て街を歩く子どもや若者に声をかけ、話をしたり、スポーツをしたりして彼らの居場所を作る活動です。この活動を通して、家や学校に居場所がないと感じる若者の多さと、彼ら彼女らの叫びの声は街に出てこちらから働きかけなければ聞こえてこないという現実を知りました。自分に優しくしてくれる大人を探して夜の街に出る若者。生きている実感がほしくて危ないことをする若者。そんな彼ら彼女らに投げかけられる言葉は、「甘えていないで真面目に働きなさい」「親孝行しないといけないよ」など、往々にして冷たいものばかりです。どうかそんな言葉の刃を捨てて、その人の名前を呼んであげてください。おはようやありがとうの言葉をかけてあげてください。そばにいること、それだけでも十分です。
人の居場所は、家や学校、支援機関の中にあるわけではありません。人と人との対話の中に生まれ、育っていくものではないでしょうか。苦しんでいる人々の声をなかったことにしないように、わたしはこれからも悩み、考え、生き抜いていこうと思っています。