「生きづらさ」について考える「ダイバーシティ&インクルージョンセミナー」(全2回)の第2回が6月15日夜、オンラインで開催されました。
「コエール2022」と連動するプログラムとして、ブリッジフォースマイル(B4S)が主催。「ダイバーシティ(多様性)」と「インクルージョン(包括)」をキーワードに、「一人一人が生きやすい社会」の実現に向け、さまざまな社会問題の当事者や、企業のCSR(企業の社会的責任)担当者が、参加したみなさんと一緒に考えました。
第2回は、神原由佳さん(アルビノ)、塚田友樹さん(視覚障がい者)、木幡美子さん(株式会社フジテレビジョンCSR・SDGs推進室部長)の3人が登壇しました。
■ 私の「タグ」 ひとつだけじゃない
神原さんは、先天的にメラニン色素が欠乏する遺伝子疾患の「アルビノ(眼皮膚白皮症)」です。メラニン色素をつくる機能がなかったり弱かったりするため、髪の毛や皮膚など外見の症状や、弱視など目の症状があり、医学的な治療方法はなく、日本に5000人ほどいるといわれています。
現在は、社会福祉士、精神保健福祉士の資格を持ち、ソーシャルワーカーを務める傍ら、アルビノのセルフヘルプ・グループ「日本アルビニズムネットワーク(JAN)」の有志スタッフとして活動に携わり、自らも2017年から「見た目問題」などをテーマに「当事者発信」を続けています。
幼いころの写真を紹介しながら、「生まれつき、こういう金髪の姿で生まれました。見た目のほか、視力もとても弱い『弱視』なので運転免許は取れませんし、日焼けにも注意が必要です」と説明。アルビノの仲間と飲み会をした時の写真を見せ、「一言で『アルビノ』といっても、いろんな髪の色をしているのが、わかります」と話しました。
幼稚園のころから「人と違う」と感じるようになり、小学校低学年の時、自画像を描く授業で、クレヨンの「肌色」が、自分の「肌色」と違うのに気付き、悲しい気持ちになったそうです。モヤモヤした気持ちで10代を過ごす中、「人の役に立ちたい」と思うようになり、大学で社会福祉学科を専攻しました。
「当事者発信」を続ける中、「日本って、まだまだ、すごく『同調圧力』が強いな、生きづらさを感じる人が多いじゃないかな」と実感。容姿が違うことで劣等感を抱いたり、自信をなくしたりし、「自分を大切に生きる気持を、なかなか持ちづらかった」といいます。周囲に「当事者発信」している人もなく、生き方のお手本となる〝ロールモデル〟がいないため、将来がイメージできず、「そもそも大人になれるのかな」という不安もあったそう。若い当事者に、自分と同じような苦しい経験をしてほしくないと考え、当事者発信を続けています。そんな中、「マジョリティ」と「マイノリティ」の隔たりを感じるといいます。
「自分は『アルビノ』以外にも、『20代の女性』であり、『ソーシャルワーカー』でもあり、一つだけに『タグ(属性)』付けされたくないという思いがあります。〝立場〟〝属性〟関係なく、みんなで一緒に考え、語り合える社会になってくれたら、うれしい」と語りました。
◎神原さんがニュースサイト「ウィズニュース」連載中です
▶#アルビノ女子日記
■ 障害者が健常者支援 「役立てる」実感
塚田さんは、「網膜色素変性症」という網膜の病気で、現在は、ほぼ全盲です。小4のころまでは視力が「1.0」くらいあり、自転車に乗り、教室の一番後ろから黒板が見えたといいます。網膜色素変性症は、網膜の細胞が年々死んでいくものの、症状の進行には差があり、「祖父も同じ病気でしたが、漁師として活躍し、死ぬまで見えていたので、まさか、自分が視力を失うとは思わなかった」といいます。
小6のとき、重度のアトピー性皮膚炎で入院し、白内障も併発。手術の時に強い光を浴びて悪質変性症へと進行し、急速に視力が悪化しました。中学のころには、視力が「0.3」に。黒板の赤いチョークの文字が見えず、それでも、ほかの子と違う対応をされることに抵抗を感じ、「自分に合わせて」と言いたくなかったそうです。
高校は特別支援学校に通ったものの、「マイノリティ」の立場になじめず、白杖も受け入れたくないと抵抗していました。しかし、「自分のあるがままの人生を受け入れていく過程が大切だと気付き、自分を否定しない生き方ができるようになりました」。一方で、全盲の自分が前を向いて進んでいる姿を見て、励みにしてくれる人がいることも知ったそうです。
現在は、鍼灸師として、鍼治療室を営む傍ら、「双方向で、さまざまな立場の人たちと、それぞれの価値観や思いを共有していきたい」と考え、オンラインで「ゴジョノワ」という活動にも取り組んでいます。
さらに、「きっちょも」というペンネームで、漫画の原作にもチャレンジ。塚田さん家族をモデルに盲目夫婦の子育てを描いた「くにゅと見えない世界」を、SNSを中心に発信しています。
セミナーでも話の冒頭、参加者に実際に漫画を読んでもらう時間をとりました。塚田さんは「関心を持たれにくいマイノリティだからこそ、関心を持たれやすいものと掛け合わせた方が、身近に感じて、知ってもらいやすくなるのでは?」と考え、漫画を選んだそうです。
◎塚田さんご家族の「子育て」を題材にした漫画はSNSで公開中です
▶note連載「くにゅと見えない世界」
▶YouTube「きっちょもチャンネル」
■ 〝多様な発信〟で 誰もが生きやすい社会の実現へ
木幡さんは、フジテレビの元アナウンサーで、現在はCSR(企業の社会的責任)やSDGs(持続可能な開発目標)を推進する部門を統括しています。
誰もが生きやすい社会の実現に向けて、テレビの役割について話しました。
企業として、またメディアとして、内と外に対してダイバーシティを発信しているということです。
まず、外に対しては当然「番組」を通じた発信が一番メイン。中でも2018年7月から放送している「フューチャーランナーズ~17の未来~」(毎週水曜22:54~23:00関東ローカル)は、SDGsの課題解決にむけてアクションを起こしている人たちを毎週紹介しています。
今回はその中からダンスの振り付けに「手話」を取り入れた手話ダンサー「HANDSIGN」を紹介した回の動画を紹介。メンバーは、「英語と同じように、手話が一つの言語として身近な存在になってほしい」と語っていました。
また、3月8日の「国際女性デー」に合わせ、テレビ局の垣根を越えて展開したキャンペーン「#自分のカラダだから」では、生理のことなど、実はあまり知られていない「女性のからだ」と、それを巡る社会問題について、一緒に考えようと呼びかけました。
B4S主催の「カナエール」や「コエール」では、2012年からフジテレビのアナウンサーが、スピーチ指導でサポートしてきました。
フジテレビの社屋イルミネーションを活用した「アウェアネスカラー」ライトアップも実施。レインボーブリッジや観覧車など臨海副都心エリアの施設とも連携しています。「世界自閉症啓発デー(ブルー)」「乳がんの予防啓発(ピンク)」「児童虐待防止(オレンジ)」「女性に対する暴力の根絶(紫)」などのテーマごとの色で本社社屋をライトアップしています。
▶社屋イルミネーション AURORA∞ – フジテレビ (fujitv.co.jp)
フジテレビのCSR活動をまとめた昨年の年次レポート「フジテレビCSRリポート2021」は、自閉症アーティストGAKUさんの絵を表紙にしました。
一方、GAKUさんの作品を社内の会議室にも飾るなど、内への取り組みにも力を入れています。男女別以外に、車いすを使う人や、LGBTQなど性的マイノリティの人にも利用しやすい「だれでもトイレ」を設置。多様な人材を採用するため、男女の採用割合をほぼ同じにし、障害者や外国籍の人も積極的に雇用。男性の育児休暇の取得率も上がり、アナウンサーも担当番組を2週間休んで、子どもと過ごすことが、ごく自然になってきたそうです。
「テレビが変わること」が大切な理由について、こう説明しました。
「『テレビは今を映すメディア』と言われます。ならば、逆にテレビが変わることで、今を〝つくる〟こともできるのではないか。ニュースやドラマの中で、ごく普通に、自然体で多様性を映していくことで、見る人も「これが当たり前なんだ」「こういうのが普通なんだ」と思ってくれるのではないか。〝多様な発信〟で生きづらさをなくし、誰もが生きやすい社会を、テレビを通じて実現できたらいいな、と考え、日々活動しています」と結びました。
◎フジテレビジョンのCSR活動を紹介したWebページです
▶フジテレビのサステナビリティ・CSR
■ 塚田さん 「助けてもらっている」シーン強調しすぎ
■ 神原さん もっと「人間のリアル」な部分も描いて
■ 木幡さん 多様な接点を持ち 脱「ステレオタイプ」を
クロストークでは、登壇した3人と参加者が感想を語り合いながら、掘り下げました。
さまざまな「当事者」が、テレビのドラマやCMなどで、どう描かれているのか。木幡さんは、時代とともに、男女の描かれ方が変わってきたといいます。かつての「古い役割分担」から、最近は男性が洗濯するシーンも普通に登場するように。一方で、今でも知らず知らずのうちに誰かを傷つけていることはないかと自問し、「テレビの伝え方」について、神原さんと塚田さんに気になることはないか、尋ねました。
塚田さんは、視覚障害者が登場する際、「助けてもらっている」シーンが強調されすぎていると指摘。実際の社会では、助けを借りず、しっかり働いていたり、逆に誰かを助けていたり、もっと多様だといい、「わかりやすく伝えよう」とするがために、逆に誇張された視覚障害者像が伝わっているのではないか、と投げかけました。
一方、ドラマ「恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール」(日本テレビ系列)について、塚田さんは「いいバランスだなあ、表現の仕方がずいぶん当事者目線になっているなあ」と思ったそうです。
大みそかの「紅白歌合戦」の「男女対抗」について、ダーバーシティ的にはNGなのではないか、という木幡さんの問いかけに、神原さんは、「女性=赤、男性=白が、そもそも〝隔たり〟。『隔たりのない年末の歌番組』が見てみたい」と応じました。
神原さんは「テレビに登場するマイノリティの人たちが、かっこよく、障害など困難を乗り越えたスーパースターみたいに描かれがち」と指摘。「私自身は、なんか鈍くさかったり、かっこ悪かったりするところも持ち合わせていて、それが『人間のリアル』な部分。もちろんかっこいい場面も映してほしいけど、でもちょっとかっこ悪かったり、お茶目だったりするところも見てみたいな、と。かっこよく描かれすぎて、ちょっと近寄りがたいとか、仲良くなれないかなあとか、思われちゃうのは、もったいないな」と思うそうです。
これについて、塚田さんが「表現する上で、わかりやすく伝えるため、『こうしないとね』というようなことが、どうしてもでてくるのですか」と質問したのに対し、木幡さんは、作り手側が普段、目の見えない方、耳の聞こえない方と付き合う機会が少ないと指摘。「悪気があるわけではないものの、どう伝えたらいいかわからないため、ステレオタイプな伝え方になってしまうのではないか。今日みたいな機会を通じ、当事者の人たちと知り合っていくといいのかな」と述べ、多様な人たちと接点を持つことの大切さを強調しました。
■ 「多様性、前面に出さず 自然な雰囲気で」
■ 「〝特別枠〟ではなく、一人の人間として」
参加者からも意見が出ました。ある男性は「興味を持ち、知ってもらうためのきっかけとして、共感したり感動したりする場面などを盛り込みながら構成していくことは大事」としつつ、当事者が傷ついたり、利用されたりするのは問題と指摘。「多様性という言葉を前面に出さなくても、自然にやっていけるような雰囲気を大事にしていけば、社会全体がおのずとレベルアップしていくのではないか」と述べました。
第1回セミナーに登壇した川向緑さん(日本オラクル株式会社コーポレート・シチズンシップJAPACシニアマネージャー)も一般視聴者として参加。「障害のある人やLGBTQの人が、そのカテゴリーの〝特別枠〟ではなく、普通に一人の人間としてドラマに出てきてほしい」とのコメントを寄せました。
木幡さんは、コメンテーターも多様性が出てきていると説明。塚田さんが「僕のような人間がコメンテーターで出演するとしたら、どんなシーンで起用されますか」と質問したのに対し、木幡さんは「声もいいし、世の中のいろんな事象に対し、何か意見を持っていそうな気がする。事件事故の際も、違った視点でコメントできる」と応じました。
「マイノリティとは何か」についても、意見を交わしました。
木幡さんは、自身の子育て体験をもとに「ベビーカーを引いていると、すごくみんなに邪魔がられて、もしかしたら車いすの方とかも、こういう思いなのかな、と。でも、ライフサイクルの中で、自分も突然、そういう立場になることもありますよね」。
神原さんは「人間って、誰しも立場や状況が変化するもの。柔軟に考えたり、対応できたりする人が増えると、誰にとっても、生きやすくなるのかな、と思います」。
塚田さんは、「当事者として、人生の充実感や幸福みたいなものがほしい。だから、かっこつけず、弱いところを、お互いさらけ出して、本当に人間くさい、かかわりができることが大切なのでは」と語りました。