2022年7月2日(土)に親を頼れない若者によるスピーチイベントを行いました。その一部を紹介し、社会的な背景とともに振り返ります。
Kaito/20代/男性
私は幼少時から虐待を受けて育ちました。4⼈兄弟の3番⽬ですが、両親はどちらも再婚で、兄弟同士で親が異なり、母には虐待を受けて育った過去がありました。いびつで複雑な家庭に居場所はなく、毎日死にたい、明日死ぬかもしれないと思いながら生きていました。学校にもあまり行かせてもらえませんでしたが、中学に入って半年ほど経った時、人生の転機がやってきました。担任の先生がなかなか学校に来ない私を気にかけ、私はどうしたいのか、と私の意思を聞いてくれたのです。それまでも、アザだらけの体を見て声をかけてくれた人はいましたが、自分の意思を聞かれたのは初めてで、とてもうれしかった。生まれて初めて、希望を持つことができたのです。私は先生にすべてを話し、児童養護施設に入ることになりました。その結果、今の私は大学で学び、仕事もできています。
一方私の兄弟は、両親と同じようなルートをたどって生きています。虐待を受けたりした経験は、すごい勢いで、同じ過ちを繰り返すように引っ張ってきます。負の吸引⼒です。私もその吸引力に引っ張られそうになった時がありますが、中学の先生や施設の職員さん、友だちなどたくさんの人に助けられて、今ここに立つことができています。
児童虐待は往々にして世代間連鎖を起こします。子どもにとって絶対的な存在である親との関係は、自分を取り巻く世界との関係の基本になります。親から無条件に愛された子どもは親との間に絶対的な愛着関係を育み、それが心の安定や他者との信頼関係につながっていきますが、虐待を受け、親との愛着関係を育むことができなかった子どもは自分も他者も信頼することができず、世界は自分にとって敵対的・拒絶的なものだと考えるようになってしまいがちです。そうした考え方は友人や同僚、さらにパートナーやわが子など、自分にとって大切なはずの人々との関係にもマイナスの影響をもたらし、しばしばトラブルのもととなります。わが子との間に愛着関係を育むことにも困難がつきまとい、時には自分がされたのと同じような虐待をしてしまう。これではいけないとわかっていても、自分で自分をコントロールできない。Kaitoの言う「負の吸引力」です。
それでも、連鎖を断ち切ることはできます。施設の職員や里親などとしっかりした関係を築いたり、パートナーから十分な理解と支えを得られるなど、信頼できる相手との出会いや適切なサポートがあれば、人は「負の吸引力」に打ち勝ち、新しい人生を切り開いていくことができるのです。
今このスピーチを聞いている⼈の中に、明⽇死ぬかもしれないと思っている人がいないといいなと思いながら話しています。今こうして私がここで話せているように、人は可能性で満ちあふれています。人は生きているだけで希望がある。逆に、人の希望を奪う可能性もあります。自分の可能性を信じて、トライしてみてください。それはきっと巡り巡って誰かのためになります。虐待などさまざまな問題は、未来の私たちが創り出すものです。だからこそ負の吸引力に引きずられることなく、⾃分が作り出す前向きなパワーで、今度は誰かにきっかけを与えられたらと思っています。私は子どもに期待してもらえるおとなになりたいのです。