2022年7月2日(土)に親を頼れない若者によるスピーチイベントを行いました。その一部を紹介し、社会的な背景とともに振り返ります。
セーラ/20代/女性
私は、2歳から18歳まで児童養護施設で暮らしていました。施設に入った理由は親の虐待だと聞きましたが、教えてくれる人によって話が違い、何が本当なのか私にはよくわかりません。施設を自分の家だとは思っていませんが、当たり前のように帰る場所でした。私の施設では子ども同士がとても仲良くて、学年に関係なく、みんなで一緒に遊んでいました。行事もたくさんあり、特に楽しかったのがお正月のイベントでした。外食に行ったり、映画や買い物に行ったり、ビンゴ大会をやったり。夜遅くまでおやつパーティーをしたり、テレビをみたり、みんなでリビングで寝たりしたのも思い出に残っています。
高2の時からはキックボクシングのプロになると決めてがんばっていますが、施設の職員もほかの子どもたちも私の夢を否定せず、応援してくれています。それなのに、外の人から「どこに住んでいるの」って聞かれて「施設」と言うと「何それ」って言われるのが嫌でした。施設のことを説明したら空気が暗くなって、言わなければよかったと思うこともありました。だから、皆さんに施設のことをもっと知ってほしいのです。
児童養護施設は全国に605カ所あり、2~18歳の子どもたち約3万人が暮らしていますが、その実態はあまり知られていません。かつては大規模な施設がほとんどで、多数の子どもたちが2~8人くらいずつの大部屋で暮らし、食事は大きな食堂で一斉に食べる「大舎制」が主流でした。近年は子どもの養育にはなるべく家庭的な環境が望ましいとの考え方から小規模化が進み、敷地内に独立した家屋をいくつか配置してそれぞれの家屋で各12人以下の子どもが生活する「小舎制」が増えています。地域の一般住宅を利用して6人以下の子どもが職員とともに生活するグループホームも続々と誕生しています。また、大規模な施設でも子どものプライバシーを尊重するため、個室化が進んでいます。児童養護施設の実態は大きく変わっているのです。
現在の施設で暮らす子どもたちの日常生活は一般の家庭とさほど変わらず、一定の制約があるとはいえ、塾や習い事に打ち込む子も多くいます。大学や専門学校などへの進学率も上昇してきています。約6割が親からの虐待を経験しているなどそれぞれに重い事情を抱えていることは事実ですが、施設で暮らしているというだけでかわいそうな子どもだと決めつけたり、敬遠したりするのは間違いと言えます。
施設に住んでいないと体験できないことがたくさんあります。私は施設にいたからこそ、きょうだいみたいな友だちがたくさんできました。いまは格闘技留学をめざして、アルバイトで留学費を貯めながら、週6日の練習をがんばっています。施設の職員や友だちなど周りの人が応援してくれるからこそ、きつい練習もがんばれます。
高2の時、信頼できる友だちに、思い切って施設に入っていることを伝えました。友だちは施設に遊びに来て、小さな子どもに「かわいい」と言ったり、「施設が広くてうらやましい」などとも言ってくれたので、言ってよかった、勇気を持って伝えることは大切だと気づきました。私は、施設が、親がいなくてかわいそうな子どもがいる場所ではないと、たくさんの方に知ってほしいです。