2020年7月4日に親を頼れない若者によるスピーチイベントを行いました。
その一部を紹介し、社会的な背景とともに振り返ります。
ジェイ/20代/男性
僕は両親から虐待を受けて小学6年で児童養護施設に入りました。いまは保育士として働いていますが、22歳になったいまでも親が怖くて、親には敬語を使って話します。実は、僕の両親も虐待を受けて育ちました。虐待は連鎖するといいます。愛情をもらっていない子どもは、親になっても愛情の注ぎ方がわからないからです。僕も、「自分も子どもに虐待をしてしまうかもしれない」という恐怖を感じることがあります。
子どもにとって絶対的な存在である親との関係は、その後に出会う他者全般との関係に反映されます。親から安定した温かい愛情を与えられた子どもは他者に対し自然な信頼感を持てますが、親から虐待された子どもは、他者とは自分につらく当たるものであり、自分は誰からも望まれない存在だと思い込みがちです。その結果、パートナーや自分の子どもと安定した温かい関係を築くことにも困難がつきまといます。子育てによって自身の子ども時代の記憶が呼び起こされ、その葛藤が子どもに向かってしまうこともあります。
虐待が連鎖するといわれるのはそのためですが、もちろん、連鎖を断ち切ることは可能です。成長期に、親に代わって安定した愛情を与えてくれる存在に出会うこと、適切なカウンセリングを通して自分と他者の関係を立て直すこと、新しく家族になったパートナーから十分なサポートを受けること、などによって、人は新しい自分になっていけるのです。虐待のリスクがなお高い場合でも、妊娠期から乳幼児期まで長期にわたって保健師などが見守りを続けることで、虐待が防げることもわかっています。
ジェイも、高校を中退するなど何度かつまずきながら、周囲の人々の温かいサポートを得て専門学校に進み、保育士となることができました。
自分も親のような人間になってしまうかもしれない、でもなりたくない。そう思って僕は、絶対に体罰をしない保育士という職業を選び、どんな子どもにも同じ愛情を注ぐということをモットーに仕事をしています。最高に楽しくて、やりがいのある仕事です。でも、もし僕が小さいころ、誰かが虐待を止めてくれていたら、こんな恐怖を持たずに済んだかもしれません。外出先で親に叩かれたり、暴言を言われたりした経験がありますが、その時に誰かが止めてくれていたら……。みなさんは、「これって虐待?」と思うような状況を見たことはありませんか? そんな時、声をかけるのは怖いですよね。でも、その一言で子どもは救われます。声のかけ方はたくさんあります。直接でもいいし、通報という手段もあります。子どもたちには、たくさんの愛情の中で育ってほしい。将来親になった時に、その子どもに同じようなことをしないでほしいのです。だから、思い切って声をかけてみませんか?
執筆 : 原沢 政恵