7月21日に親を頼れない若者によるスピーチイベントを行いました。
その一部を紹介し、社会的な背景とともに振り返ります。
ディーン/20代/女性
児童養護施設を退所して充実した大学生活を送っていますが、あるプログラムでドイツに行くことになって壁にぶつかりました。未成年がパスポートを取るには保護者のサインが必要ですが、会ったら何をされるかわからないような親にサインはもらえません。パスポートセンターに相談の上、出身施設やプログラムの運営者に依頼しましたが無理だと言われ、センターに再度相談したら責任者が「わからない」。虐待とか施設とかこれだけ話題になっているのに、誰もどうすべきかわからないって……。頼れる親がいないというだけで普通のことができない現状がすごくくやしいです。
未成年のうちは、携帯やバイト、アパートの契約など、何かにつけて「保護者の同意」が必要とされます。児童養護施設にいる間は施設長が代理をしてくれることが多いのですが、18歳で施設を退所するとそれもできなくなります。いっそ親がいなければ親戚や弁護士などが後見人として保護者の役割を果たすことができますが、親がいる以上、親の同意を当然のこととして求めるのが現在の日本社会です。しかし、養護施設で育った子どもたちの半数以上は親からの虐待を経験しており、親は「いるけれど頼れない」のです。
ディーンの場合は結局、大学の先生のサインでドイツ行きが実現しましたが、先生の尽力がなければ、右往左往したまま貴重な学びの機会を逃すところでした。
アパートの契約などについては、国の身元保証人確保対策事業などで、施設長が保証人になりやすい環境が徐々に整ってきていますが、施設長もひとりの個人であり、多くの退所者の保証人となるのは困難です。
2022年には成人年齢が18歳に引き下げられますが、それを待っていては、多くのディーンたちが「普通のことができない」苦しみの中に放置されることになります。
「わからない」と言われてすごくむなしかった。まるで私の存在が無いみたいで……。私たちのような、親を頼れない若者が多くいるとみなが知っていれば、問題は起こらないはずです。まずは知ってください。そして社会の常識を変えてください!
執筆 : 原沢 政恵
撮影 : 山村 隆彦