7月21日に親を頼れない若者によるスピーチイベントを行いました。
その一部を紹介し、社会的な背景とともに振り返ります。
Maji/20代/男性
児童養護施設で暮らしていた中学生の時、僕がとても不安だったのは、高校受験の日にインフルエンザにかかってしまったらどうしよう、ということでした。予防接種を受けるには保護者の同意が必要ですが、僕の親は同意のサインをしてくれず、それまでも予防接種を受けたことがありませんでした。高校に入れなければ、施設を出て働くしかない。大切な人生の分かれ道を前に、みんなが普通にできることを、なぜ自分だけができないのか。腹が立って不安で仕方がありませんでした。
未成年は、何かにつけて保護者の同意が必要とされます。児童養護施設で暮らす子どもたちの場合、バイトや携帯の契約などであれば、施設長が代理で同意することが日常的に行われていますが、医療行為である予防接種については、同意のハードルが少々高いのです。
予防接種法は、原則として文書による保護者の同意が必要だと定めています。厚生労働省は、保護者の同意が確認できない場合などは施設長の同意で実施できるとしていますが、一方で「可能な限り保護者から文書による同意を得るよう努める」ことも求めており、施設によって対応にばらつきがあるようです。入所時に親から包括的な同意文書を取りつけることで対応する施設も増えていますが、包括的文書でどこまでカバーできると言えるのかなど、問題は残ります。
Majiは、この問題を機に親の親権喪失を裁判所に申し立てて実現。その上でインフルエンザの予防接種を受け、無事に高校に進学することができました。親権喪失まで踏み込むケースは多くはありませんが、Majiはその後も「親権」が問題になる機会が多いことを見据えて、決断したそうです。
子どもが安心して施設で暮らし、巣立っていけるよう、児童養護施設や児童相談所の職員がいろいろな問題を事前に解決しておくべきだと思います。一方、職員の方々の仕事がどれだけ大変か、その中でどれだけ頑張ってくれているかも、僕は知っています。施設の環境を整えるため、子どもたちの未来のために、どうか力を貸してください。
執筆 : 原沢 政恵
撮影 : 山村 隆彦