3月半ば、身近に森を感じられる自然豊かな神奈川県の研修施設「上郷森の里」にてイルミネーター、エンパワ、ボードメンバーが集結して合宿が行われました。
コロナ禍でブリッジフォースマイルのワークショップ運営はオンライン中心となっていますが、スピーチ作りでチームで作業を進めるための安心・安全な場を作るために、リアルで会い、お互いを知ることも大切です。この合宿では当事者体験を基に原稿作成をするうえで欠かせない信頼感を持って取り組める「チームビルディング」と、有識者からの講義を聞いて視野を広げて、学びを深め、自分たちが置かれていた状況が社会問題であると理解してスピーチに取り組む「知識を蓄えるワーク」などが行われました。
合宿の最終的なゴールである「スピーチテーマを考える」「チーム方針や活動計画の作成」を目指して、各々が合宿プログラムに取り組みました。
ワークショップではまず初めにヒューマンビンゴを通じて、初めてリアルで会う緊張感をほぐしました!
はじめに、発表の参考としてLGBTをテーマとして社会への理解を求めるスピーチ動画を鑑賞し、感想を伝え合う事からスタート。スピーチをするうえで工夫している点やエピソードを交えた表現からわかりやすく伝える工夫について考えました。
社会に「自分の考えと社会活動を訴えかけるスピーチ」に「自己の経験も交えて話す」ことで、より人に訴えかけるスピーチとなるなどが参考になるという感想がイルミネーターより出てきていました。
有識者の方々とのトークセッションでは
次にジュニアボードの「ヨウ」のファシリテーションにより、児童福祉施設長、弁護士、新聞記者をお招きしたトークセッションによるインプットが行われました。児童養護周辺の環境や法整備が今までどのように進んできたか。進めてきた先人たちの苦労と、現在は法整備も進んできたが、改善や推進が上手くいかない要因はなにかなどを通じて、「なぜ虐待が起こるのか」「孤立してしまっている子どもを救うための活動事例」「現場の状況」から、変えていくためには社会に訴え続ける必要があることなどが伝えられ、まさにコエールの「社会で行動する仲間を増やす」活動の大切さを認識しました。
有識者から出た「児童養護施設に来る子どもは諦め慣れている」という言葉に、普段社会的養護の下にいる子どもたちと接し馴れている我々も衝撃を受けました。その言葉で改めて、子供に諦めさせない大人としてのかかわり方を考えたいと、このコエール活動への決意を新たにしました
◆有識者とのトークセッションを抜粋して紹介します
ーーーなぜ虐待はなぜ起こるのか
児童養護施設に入所することの発生率の多い地域と少ない地域があって、新興住宅地は多いという事がある
育ったのと違う地域で子育てをしているので身近に頼れる人もいなく、孤立したまま何もわからないで状態で子育てするしかない人もいて、虐待が起こりやすくなっている。家庭によって、情報力の差により得られる知識も違い、制度が進んでいても届かない人たちがいる
ーーー虐待の連鎖という言葉があるが
親を頼れる状況にない子どもが施設を出て、例えば施設を出た後、妊娠出産をするときにサポートしてくれる人がいないという事が現実的な問題としてあった。社会的養護出身の大人たちに足りないものは何かがようやく表面化されて問題視される動きが出てきて、アフターケアの大切さが検討されるようになってきている
ーーー親を頼れない人たちが子育てをするにあたり
孤立した子育てをしている親を救おうという動きが出ている。だが、制度はあってもソーシャルワーカーが少なく、その制度を届ける人が少ない
適切な支援につながるようにできる社会だといいが、行政の手が足りないところで民間NPOを中心に活動を補填するというアクションは出てきている
ーーー伴走型支援について
新しく暮らすことになった自治体で困りごとの解決方法を探すのは難しく、支援にたどり着けない人がいる。例えば保育園を探せないところから、働きにも行けないしお金に困り、親のストレスもたまり、親が追い詰められて虐待につながるケースがある
追い詰められた人が受けられる支援を自分で探しに行くのではなく、困っている人を見つけて、おせっかいを焼いてくれる人がいないとせっかくの制度がうまく機能しない
「助けてください」と言いにくい社会になってはいけない。頼ることは決して恥ずかしいことではないんだという事が浸透していけばもっと支援につながりやすくなるのでは
ーーー子どもの権利に対する価値観を変えるには
日本人の過去の価値観で、子どもを叩いてもいいんだ、人格を否定するような言葉を使ってもいいんだということがかつて存在した。現在は子ども期を生きる一人一人の人間の発達に配慮が必要で、体罰や心の発達に有害な言葉や行動はだめだという事が法律でも定められるようになった。法律の整備で子どもの権利はすごく前進はしたが、法律に書いてあるからと言ってそれがすぐに社会に浸透するというわけでもなく、子どもが個人として、社会の大切な人格の一つとして、これから子育てする大人たちがその価値を胸に刻み付けていくことが重要
長い歴史で作られてきた日本人のこの価値観を、どう訴え続けてい変えていけるかという事もポイントだ
海外の事例を基に児童養護の問題を学ぶセッションでは
お夕飯や休憩の後、まだまだプログラムは続きます。フランスで児童福祉の研究と執筆活動をしている安發明子(あわあきこ)さんと合宿所をオンラインでつなぎ、海外の児童養護の事例や児童養護下にいた子どもたちが社会に改善を訴えていった様子、改善されてきた歴史、子どもの権利を当たり前に社会で守っていくために、しっかりと「権利のための考え」が幼いころから国民に浸透されている様子など、海外の事例から学びを得る講義が行われました。
フランスの社会的養護、在宅支援、子ども専門裁判官などの仕組みを知ることで、日本との違いや日本でも参考にできそうなことを考えてみることが目的です。
日本の場合は問題に行き詰って初めて行政の福祉の扉をたたく例が多いですが、フランスでは「予防」として利用できるように、すべての人に福祉は開かれています。証拠がいらなく、虐待までいかなくても「心配」というだけで通報ができ、連絡をすると「調査」でなくて、「支援」が入る。子どもの様子に大人が気が付かなければならないという事になっていて、福祉の手が必要な人に届きやすく、しっかりと相談する権利が守られる仕組みができている日本との違いなどが紹介されました。
子どもの権利、子どもも自分の権利を主張していいんだというフランスの考え方と、実際に当事者からの声がしっかり届いて運用されている社会の仕組みが紹介され、日本との大きな価値観の違いが紹介されました。自分には「権利」があるということが、子どものころから根付いてるなど、「権利に対する考え方」に気づきを得ました。
◆安發さんとのオンライン授業で学んだことを抜粋して紹介します
ーーー虐待している親たちへの教育がないなと日本では感じる。フランスの場合はどうなっているか?
フランスでは極力家庭のところにワーカーが通って親事情をひとつひとつ解決していくという方法をとっている。自宅措置という事で、子どもが別居を希望しない限りは親と一緒に暮らし、子どもが自宅にいる間は24時間ソーシャルワーカーが家にいるという環境を作っている。親とともに環境を改善させていくことを目指している。
フランスで実際に行われている「自宅措置にある子供が家にいる間は24時間ソーシャルワーカーも家に居る」の声にどよめく研修室内
ーーーフランスの制度では大量のソーシャルワーカーが必要。財源はどうなってるの?
日本だと介護保険というのがあるが、フランスの場合は「家族保険」というのがあり、そのお金は独身だろうが家族がいようがいまいが全員払うものだが、それは企業が払っている。そのほかにも回収の方法はいくらでもあって、例えば未成年の売春あっせんは4億円の罰金が科せられており、即日国に借金ということになってその後の人生で稼ぐすべての収入や死んだ後でも罰金は回収される。などがある
ーーーフランスではどのくらい小さいときから、子どもが人権を持っていると意識できる機会があるの?
知らないことが権利の侵害であると考えられているフランスでは、6歳で小学校に入学したときから法律の授業がある
例えば出産の際に、生まれて2時間の子どもに「お母さんはしっかり寝て休む権利があるからあちらの部屋に行きましょうね」と声をかけたり、アリの巣の上に足を置いた子供が「君にそんなことをする権利はないよ」と諭されるなど、自分と他の人の人権をすごく大切にするという事が幼いころより染みついている
リアルで対面する機会が少ないため、合宿ではインプットの他にも、今後の宣伝材料としての写真撮影も合間を縫って行わるなど盛りだくさんでした。また、長時間に及ぶ研修の合間に、普段はジムのトレーナーとして活躍しているイルミネーターから体操を習うなど、次の日も頑張れるよう工夫をしながらプログラムは進行していきました。
気付きや学びを得たコエール関係者はスピーチテーマを決めるためのヒントを掴み、合宿のゴールとしている「スピーチテーマを考える」 「チーム方針や活動計画の作成」に備えました。
合宿二日目の様子はまた別の記事でお伝えします。